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第32回 医療費の負担が増えるなら ・・・低所得層に受診抑制 (2011年11月17日陸奥新報掲載)

 医療費の負担増の議論が進んでいます。本欄で紹介した「受診時定額負担」(受診のたびに窓口負担に100円を上乗せする制度)や、“凍結”されている70~75歳の窓口負担を1割から2割へ引き上げることなどが検討されています。そして財政見通しの議論のでは、医療費の負担が増えることによって見込まれる受診控え「長瀬効果」が期待されています。

 

 ▽「長瀬効果」とは

 戦前、旧内務省の数理技官・長瀬恒蔵氏は「医療費の自己負担が増えると受診抑制がおこり医療費は減少する」と提唱しました。これが長瀬効果で、その割合を数式で表したものが「長瀬指数」と呼ばれています。

 一般制度と老人保健制度の医療費の指数を二つの回帰式で求めることができます。この式に当てはめ、一般の窓口負担が2割から3割に増えると、医療費は8・6%減少し、老人保健の窓口負担が1割から2割になると医療費は9・4%減少すると予想されます。若者より高齢者の受診抑制が大きいとされています。

 

 

 ▽財政効果4000億円に

 現在議論されている受診時定額負担を導入した場合、財政に与える影響についても長瀬効果が期待されています。

 厚生労働省の説明によると、受診ごとに100円を上乗せして窓口で支払った時の負担総額は年間2060億円に上ります。さらに負担増よって受診控えがおこると、給付医療費は負担総額とほぼ同額の2060億円減少すると予想されています。この負担増と医療費抑制によって生まれる4120億円を、高額療養費制度(限度額を超えた部分の医療費が払い戻される)の見直し財源に充てることになっています=図参照。

 高額療養費制度の見直しでかかるのは3600億円と推定されていますが、同時に低所得者の負担を考慮することになっています。低所得者が100円ずつ支払う負担合計は最大800億円になりますが、全額を低所得者に還元してしまうとマイナスになるため、一部だけを戻すことを考えているようです。

 

 ▽収入格差も影響

 長瀬効果は、一般と高齢者に分けて分析していますが、これは収入の違いによる受診抑制を表しているとも解釈できます。

 国民の年間収入と医療費について調べた全国消費実態調査(2009年)によると、収入と食費の関係を見たエンゲル係数と同じように、世帯収入が少なくなるほど収入に占める医療費の割合が大きくなっていることが分かります。つまり低所得者世帯ほど医療費の支払いが家計に重くのしかかり、結果として受診を控えていると推測されます。

 

 ▽国保料滞納世帯が増加

 一方、厚労省は国民保険料の収納率が低下し09年には88%まで低下したことを報告しています。同時に滞納に対するペナルティーとして交付される「資格証明書」の交付世帯数も増加しています。資格証明書が交付されると窓口負担は10割になりますので、年収が少ない滞納世帯は医療機関を受診することが不可能になると思われます。

 受診時定額負担は一般世帯の高額療養費負担の改善を目指していますが、結果的に収入の少ない人が医療機関を受診できないならば本末転倒と言わざるをえません。

 制度見直しの優先順位を考えるなら、まず低収入の人が安心して医療を受けられるようにするのが一番であり、門前払いされる人が増えないようにする必要があります。

 

(青森市・大竹整形外科院長、県保険医協会会長、県社会保障推進協議会会長)

 

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