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第35回 TPP参加で「混合診療」解禁なら保険診療縮小の恐れ (2012年2月16日陸奥新報掲載)

 日米両政府は7日、日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加を巡る事前協議を始めました。米国は「自動車、保険、農産物が今後の交渉の焦点になる可能性」を示すと同時に、「公的医療保険の廃止を要求していない」と発言したと伝えられています。野田佳彦首相も「皆保険制度は断固守る」と発言していることから、特に民間医療保険分野の障壁撤廃が焦点になっていることがあらためて浮き彫りになりました。

 1年前のこの欄でもTPPの参加で日本の医療はどうなるのか、患者の負担はどうなるのかなどを解説しました。

 今回は、その後の経過も含めて「日本に混合診療が導入されると何が起きるのか」について解説します。

 

 ▽米国と同じ医療に

 現行の制度では、健康保険で認められている薬や治療方法(保険診療)と、新しい技術や治療方法(自由診療)を一緒に選択できません(混合診療の禁止)。

 しかし米国の要求通り混合診療を認めることになると、日本の医療は大きく変わり「米国と同じ」医療になります。TPP参加でバラ色の未来を予想する人もいますが、米国の経験を参考に「最悪のシナリオ」を考えてみましょう。

 現在、混合診療は例外的に認められ、範囲は限定的です。しかし、いったん導入されると混合診療市場は拡大し、保険診療の範囲が限りなく縮小することになります。

 

 ▽患者の負担が増加

 まず患者の窓口負担が増えます。負担が高額になると、上限額を超えた分が戻る「高額療養費制度」がありますが、混合診療は制度の対象にならず、際限なく負担が増えます。

 すると、がんなどで高額な医療費がかかるとなると「もしも」のために民間の医療保険に加入する人が増えます。しかし、窓口や民間医療保険の保険料を支払えない人は、十分な医療を受けられず、ここで“場外へ退場”することになります。

 民間の医療保険会社は企業ですから、保険料を支払うお客様の利益と自社の利益を求めます。各医師の判断を優先すると医療費の支払いが増えるため、独自の「支払いルール」を決めます。

 また、医療機関にとっては保険会社の不払いがあると医療費が回収できず、経営に影響を与えてしまうため、保険会社のルールに沿って診療することになります。さらに経営を安定させるために、保険診療より自由診療を優先させ、資金が不足した場合は病院の経営権を株式会社が取得するかもしれません。

 株式会社になれば、投資ファンドが介入し、利益を確保するため上場を廃止したり再上場をしたりと不安定な経営状態になったり、時には病院が急に閉鎖することも予想されます。

 また株式会社は、より「もうかる医療」を手掛けることになります。多くの人が受けたい医療は、株式会社が手掛ける医療へと変わり、健康保険でカバーできる医療の範囲はどんどん縮小することになります。

 そして新しい治療や医療技術が保険診療では認められずに、自由診療となり混合診療がさらに拡大することになります。

 医療費を払えない人、民間保険の保険料を負担できない人はこのサイクル(図参照)からはじき飛ばされ、皆保険制度でほそぼそと残った古い医療だけを受けることになります。



 日本の皆保険制度は、憲法で保障された生存権を守る社会保障制度として機能していますが、TPP参加でその社会保障制度が一気に瓦解するのではないか、と危惧しています。

 国民目線でTTP交渉を注目し続け、国民が選択できる情報を手にすることが大切です。危惧が杞憂(きゆう)であってほしいと願っています。

 

(青森市・大竹整形外科院長、県保険医協会会長、県社会保障推進協議会会長)
=第3木曜日掲載=

 

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