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第40回 孤立死と生活保護制度 —申請拒否の根絶提言— (2012年7月19日陸奥新報掲載)

 今年1月の札幌市、2月のさいたま市などと、相次いで孤立死が報道されました。一方、人気お笑いタレントの母親の生活保護受給問題から「生活保護バッシング」が起こりました。制度見直しの議論が活発化し、孤立死がさらに増えるのではと危惧されています。今回は孤立死を防止するためにどうすればよいのかを考えてみます。

 

 ▽SOS届かず

 孤立死とは「社会から孤立した結果、死後、長期間放置されるような死」といわれています。対象は一人暮らしの高齢者のほかに、介護が必要な人を抱えた複数世帯で、介護者が亡くなると要介護者も死亡する場合があります。社会から孤立していた一人暮らしの場合は「孤独死」と呼ばれることもあります。

  「全国『餓死』『孤立死』問題調査団」によると、1月に亡くなった札幌市の姉妹は、生活保護の相談に区役所を3回訪れましたが、申請書類は提出しませんでした。担当者の対応内容を示す面接受付票には「高額家賃について教示。保護の要件である、懸命なる求職活動を伝えた」と記入されていたそうです。

 

 ▽根絶のためには

 調査団団長の井上英夫金沢大教授は、「餓死」「孤立死」根絶への提言として、①事件に関する徹底した調査②必要とする人がもれなく生活保護を受けられるよう、生活保護の申請を拒絶する「水際作戦」の根絶と広報の強化③ライフライン業者などとの連携強化による緊急対応④「リスク層」に対する徹底的アプローチ⑤福祉関係職員の十分な配置と専門性の向上―を挙げています。

 

 ▽厚労省が通知

 5月、厚生労働省は孤立死の防止対策について全国へ通知しました。その中では、単身世帯に重点を置いたこれまでの対策から、最近多発している同居家族全員が死亡する例に注目し「孤立家族」への支援も目指しています。

  そして支援を必要とする人を「見つけ」、関係機関に「つなぐ」連携、そして「見守る」ための対策案がいくつも挙げられ、先進的な取り組みをしている自治体の活動例も紹介しています。

 

 ▽扶養優先の日本

 一方で「生活保護バッシング」が起こり、火に油を注ぐような過激な意見も相次いでいますが、冷静な議論が必要です。

  法律家や支援者、当事者らで構成する「生活保護問題対策全国会議」は、扶養者の範囲とその関係について先進国と比較しました=図参照=。



  国際的にも、配偶者間と未成年の子供(年齢は各国で異なる)に対する親の扶養義務を定めています。扶養義務関係にある親族から援助が受けられる場合、公的扶助(生活保護)よりもその援助が優先される日本と違い、イギリス、スウェーデン、フランスでは扶養義務が優先されません。

 

 ▽義務の程度に2種類

 日本の民法で扶養義務があるのは、夫婦間、直系血族(親子間)、兄弟姉妹ですが、自身と同じ程度の生活を保持させる「強い扶養義務」があるのは、夫婦間と未成熟の子を持つ親だけです。

  兄弟姉妹や成人した子が老いた親を扶養する場合は「余裕があれば援助する義務」にとどまることになっています。従って、「お笑いタレントの道義的評価については価値観が分かれるが、母は生活保護の不正受給ではない」(同会議)としています。

  地球よりも重い命が失われる悲劇をくり返さないためにも、冷静に議論しながら「孤立死」がゼロになる社会を目指したいと考えます。


(青森市・大竹整形外科院長、県保険医協会会長、県社会保障推進協議会会長)
=第3木曜日掲載=

 

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