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第51回 TPPで皆保険が危ない?(中) 米医療事情 -「経済優先」の弊害も-
(2013年6月20日陸奥新報掲載)

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に参加すると「米国のような医療になってしまう」と不安の声を聞きます。今月は米国医療の特徴について整理してみます。

 

▽主流は民間保険

 米国は、日本やヨーロッパとは異なり、独特な医療制度をとります。経済協力開発機構(OECD)が国際比較した国内総生産(GDP)に占める医療費の割合(2009年)を見ると、米国は17.4%(公的医療保険8.3%、民間医療保険9.1%)。各国に比べ飛び抜けて高く、民間医療保険の比率は日本(1.6%)の6倍です。



 民間医療保険が大きな市場に発達し、公的医療保険の役割は最小限だと分かります。米国の公的医療保険は個人が任意で加入します。低所得者を対象にした「メディケイド」と65歳以上が対象の「メディケア」だけで受診できる病院や医師は限られています。多くの人は民間医療保険に加入しますが、お金がなくて保険に加入できない無保険者が約4700万人いるといわれ、大きな社会問題になっています。

 米国の民間医療保険制度は、保険会社、医療機関、加入者の三者で契約を交わす特徴があり、保険料の金額によってカバーできる医療も違います。日本では医療費は全国一律ですが、米国では地域や保険プランによって医療費が異なります。

 さらに日本では、保険証があれば保険医療機関ならどこでも受診でき(フリーアクセス)、医医師は医師法によって「患者から診察治療の求があった場合は、正当な理由がなければこれを拒んではならない」という応召義務が課せられています。

 高額な保険料を支払うと自由に医師や病院を選べる反面、安い保険料では保険会社が契約しているネットワーク内の医療機関や医師だけに限定されます。

 

▽保険会社に給付権限

 医師の裁量権が広く認められている日本と違い、米国の民間医療保険は、治療期間、受診回数、薬の種類などまで細かく決められています。MRIやCT検査も保険会社に事前承認が必要とされ、承認まで3日もかかる場合もあります。

 保険会社が給付権限を持っているため、契約を盾にガイドラインに合致しない治療に対して給付を拒否することもあり、医療機関は治療より未収金が生じない方を優先させるようになります。これが「患者の人権を最優先する医療」から「経済優先の医療」へと、医師の裁量権を縛ることにつながっているのです。

 具体例は、映画「シッコ」(マイケル・ムーア監督)でその惨状が描かれています。事前に保険会社に連絡をしなかったことを理由に保険金が支払われない、がんでも抗がん剤治療が認められないなど、米国の医療問題を浮き彫りにしています。

 

▽医療費回収苦心の末に

 また、米資産運用会社による資産消失問題は、こうした米国の実情が背景にあります。民間医療保険会社の厳しい査定や不払いが日常的で、医療費回収に苦労する病院から「診療報酬の請求権を会社が安く買い取り、病院に代わって民間保険会社から保険金を回収し利益を得る」という仕組みを売りに宣伝していました。

 アベノミクス3本目の矢として発表された新たな成長戦略には、「保険外併用の対象である『先進医療』は国が全面サポート」することが盛り込まれました。米国の民間保険会社が規制緩和を要求する市場を国が先頭になって拡大することになりそうです。

 次回は、混合診療が導入されると公的医療保険の範囲が縮小する仕組みについて解説します。

 

(青森市・大竹整形外科院長、県保険医協会会長、県社会保障推進協議会会長)
=第3木曜日掲載=

 

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