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第52回 TPPで皆保険が危ない?(下) ~公的制度が"化石化" (2013年7月18日陸奥新報掲載)

 混合診療の全面解禁によって、保険原理に基づく自由診療の範囲が拡大し、社会保障としての公的医療保険制度が縮小することについて整理します。

 

▽歯科医療にヒント

 混合診療とは、保険診療と自由診療を同時に受ける診療のことをいいます。現在は原則的に禁止されていますが、先進医療や差額ベッド代金などの例外が認められています。

 混合診療が全面的に解禁された場合、将来の医療はどのようになるのでしょうか。答えは現在の歯科医療にヒントがあります。歯科でも混合診療は禁止されていますが、保険診療が終了した後の自由診療については制限がありません。歯周病治療は保険診療、歯周病治療が終了した後のインプラント治療は自由診療になります。ホワイトニングはもともと自由診療など、多くの種類の医療が自由診療で提供されています。

 厚生労働省が公表している国民医療費の中で、過去10年間の医科診療費と歯科診療費を比較すると、医科は2001年の22.2兆円から11年の28.5兆円と6.3兆円(28%)増えたのに対し、歯科は2.5兆円から2.7兆円と0.2兆円(8%)増にとどまっています。(薬剤費は別にカウントされています)



 医療費の増加は、高齢者の増加によって病気が増えることと、新しい医療技術の発達が主な理由です。高齢化は医科も歯科も平等ですが、歯科の医療費が伸びていない理由は、新しい医療技術が保険適応にならず、自由診療として発展しているためといわれています。

 

▽公的保険より高額に

 日本で認められていない新しい薬を使う場合、混合診療を導入することで、全額自由診療よりは患者の負担を減らすことができます。一方で、保険適応にした場合よりは負担が大きくなります。

 歯科医療費からも分かるように、新しい薬や医療技術を保険適応にせず、自由診療にしたまま混合診療を解禁すると、自由診療のパイが大きくなります。

 その結果、国民医療費は低く抑えることができますが、公的保険の守備範囲は変わらず、年を経るごとに古い薬と医療技術だけが残り、公的医療保険は"化石"のようになります。「公的な医療給付範囲を将来にわたって維持する」ということは公的保険の"化石化"を意味します。

 混合診療の全面解禁は、「患者の負担が減る」と宣伝されていますが、「自由診療よりも」という条件が付きます。宣伝とは逆に、公的保険よりは高額となります。

 そうなると考えられるのが、高額な医療費に備えるために民間医療保険に加入する人が増え、民間医療保険の市場は一気に拡大するということです。環太平洋連携協定(TPP)で保険分野を重点項目に挙げている米国は、規制撤廃を求めて厳しい注文を突き付けてくることでしょう。

 

▽保険会社の直接支払いの流れに

 現在の健康保険法では患者の自己負担が義務付けられているので、民間医療保険会社が健康保険部分の自己負担分を患者に代わって病院に振り込む「直接支払い」はできません。しかし、自由診療部分を「直接支払い」できるように準備しているのが「民間医療保険会社の現物給付」です。

 第一段階として、混合診療解禁と自由診療の「直接支払い」が実現すれば、何年か先には健康保険診療の自己負担も民間保険会社から「直接支払い」されることになりそうです。そうなると、米国の医療のように保険診療の「民間医療保険会社の現物給付」が完成することになります。

 県保険医協会は日本の皆保険制度が社会保障として継続するように、TPP参加によって加速される混合診療全面解禁、民間医療保険の直接支払い・現物給付に反対しています。

 

(青森市・大竹整形外科院長、県保険医協会会長、県社会保障推進協議会会長)
=第3木曜日掲載=

 

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